Carbonic Maceration — 二酸化炭素で満たしたタンクの中で
2026-10-20
Carbonic Maceration(炭酸ガス浸漬)は、ワイン醸造から借りてきた技法です。フランス・ボジョレー地方の新酒づくりでよく知られ、房のままのブドウを二酸化炭素で満たした容器に入れて発酵させます。果実の内側から発酵が始まり、華やかな果実の香りが生まれるとされる方法です。
コーヒーでは二〇一〇年代半ばから試みられるようになり、Anaerobicと並んで、発酵を設計する手法の代表例になりました。
何をするのか
選別した完熟のチェリーを、果肉を付けたままステンレスなどの密閉タンクに入れます。そこへ二酸化炭素を注入して、タンク内の酸素を追い出してから封をする。この状態で発酵を進めます。
発酵の時間は数十時間から数日程度まで、生産者によって大きく異なります。温度を低めに保ってゆっくり進める例が多く、タンクから出したあとは、そのまま実ごと乾かす(Naturalと同じ流れ)か、果肉を外して洗う(Washedと同じ流れ)かに分かれます。
Anaerobicとの違い
どちらも酸素の少ない環境で発酵させる点は同じです。違いは、その環境を「待つ」か「作る」かにあります。
一般的なAnaerobicでは、タンクを密閉したあと、発酵で生じる二酸化炭素が少しずつ酸素を押し出していきます。発酵の初期には、まだ酸素が残っている時間があります。Carbonic Macerationでは最初に二酸化炭素を注入して、発酵が始まる前から酸素のない環境を作ります。ガスの環境を、より積極的に制御する手法だと言えます。
もっとも、現場での呼び分けは厳密ではありません。密閉タンクで発酵させたロット全般をCarbonic Macerationと呼ぶ例もあり、名前だけで工程を判断することはできません。二酸化炭素を注入したのかどうかは、確認が必要な点です。
Inside the tank
酸素のない状態を「待つ」か「作る」か
- 1. 密閉した直後
- 2. 発酵の初期
- 3. 発酵が進んだあと
Anaerobic
酸素が抜けるのを待つ
タンクの上の空間には、まだ空気(酸素)が残っている。
Carbonic Maceration
最初から酸素を追い出す
封をする前に二酸化炭素を注入し、酸素を追い出す。
ワインと同じことが起きているのか
ワインのCarbonic Macerationでは、つぶれていないブドウの粒の中で、果実自身の酵素による発酵(細胞内発酵)が起きることが知られています。ではコーヒーのチェリーの中でも同じことが起きているのか。この点はまだ十分に解明されていません。
確かなのは、酸素のない環境では働く微生物の種類が変わり、生まれる酸や香りの構成も変わるということです。コーヒーでの効果は、その微生物の変化によるところが大きいと考えられています。
広まったきっかけ
この手法が広く知られるようになったのは、二〇一五年のWorld Barista Championshipです。優勝したオーストラリアのバリスタが、Carbonic Macerationで精製した豆を競技に用い、その香りの華やかさが注目を集めました。以降、品評会や競技会向けのロットを中心に採用が広がっています。
風味と、注意すべきこと
カップには強い果実感、花のような香り、そして独特の発酵香が現れやすくなります。赤いベリーや熟したブドウ、ときにシナモンのようなスパイスにたとえられることもあります。
一方で、発酵由来の香りが強く出るほど、産地や品種の個性は見えにくくなります。二酸化炭素や設備のコストもかかり、管理を誤れば単に発酵臭の強いコーヒーになります。名前の華やかさではなく、その香りが豆の素性とどう重なっているかで評価したい手法です。
各精製方法との違いは、精製方法を比べるで図にまとめています。


