Pacamara — 巨大な豆と、安定しない個性
2026-07-11
Pacamaraは名前が出自をそのまま表しています。PacasとMaragogipe。二つの品種名を繋げただけの、素っ気なくも正直な命名です。
二つの変異を掛け合わせる
Pacasは一九四〇年代にエルサルバドルの農園で見つかったBourbonの矮性変異です。Caturraと同様、背が低く密植に向く性質を持っています。
Maragogipeはブラジルで見つかったTypicaの変異で、こちらは実と豆が極端に大きくなるのが特徴です。「Elephant Bean」と呼ばれるほどの大粒ですが、収量が低く、扱いにくい品種でした。
この二つを掛け合わせる試みが、一九五八年にエルサルバドルの国立コーヒー研究所(ISIC)で始まります。狙いは、Maragogipeの大粒とPacasのコンパクトな樹形を併せ持つ品種を作ることでした。選抜を重ねてリリースされたのがPacamaraです。
Timeline
二つの変異を掛け合わせる
- 1940年代
エルサルバドルの農園で、Bourbonの矮性変異Pacasが見つかる
- 1958年
エルサルバドルの国立コーヒー研究所(ISIC)で、PacasとMaragogipeの交配が始まる
- その後
選抜を重ねてPacamaraとしてリリース。品評会の上位常連に
Family tree
品種の系譜(上から下へ世代が進む)
← 横にスクロールできます →
- エチオピアの在来種 → Typica(イエメン経由)
- エチオピアの在来種 → Bourbon(イエメン経由)
- エチオピアの在来種 → Geisha
- Typica → Maragogipe
- Typica → Mundo Novo
- Bourbon → Mundo Novo
- Bourbon → Pacas
- Bourbon → Caturra
- Bourbon → Villa Sarchi
- Bourbon → SL28 / SL34
- Canephora → Timor Hybrid
- Maragogipe → Pacamara
- Pacas → Pacamara
- Mundo Novo → Catuai
- Caturra → Catuai
- Caturra → Catimor
- Timor Hybrid → Catimor
- Villa Sarchi → Sarchimor
- Timor Hybrid → Sarchimor
- Sarchimor → Marsellesa
- Sarchimor → Centroamericano
- エチオピアの野生種 → Centroamericano
- Marsellesa → Starmaya
- Centroamericano → Starmaya
品評会での存在感
Pacamaraのカップは複雑です。トロピカルフルーツ、ハーブ、スパイス、時に柑橘。一つの言葉でまとめにくい多層的な風味が現れます。Cup of Excellenceをはじめとする品評会でエルサルバドルやホンジュラス、グアテマラのPacamaraが上位に入る場面は珍しくありません。
豆が非常に大きいため、外見でもすぐに分かります。焙煎する側にとっては、この大きさが扱いにくさにもなります。粒が大きい分、内部まで均一に熱を通すのに工夫が要るためです。
安定しないという特性
Pacamaraには育種上の課題があります。遺伝的な安定性が十分ではなく、世代を重ねると親のどちらかの性質に寄った個体が出てくることがあるのです。畑の中で樹形や実の大きさにばらつきが生じ、管理が難しくなります。
カップの評価も個体差や環境差が大きく出やすい。素晴らしいPacamaraは本当に素晴らしいのですが、条件が揃わなければ平凡なものになります。この振れ幅の大きさが、Pacamaraを「挑戦的な品種」たらしめています。
挑戦を選ぶということ
収量が低く、管理が難しく、結果も安定しない。それでもPacamaraを植える生産者がいるのは、うまくいったときの到達点が高いからです。品評会での高評価は、農園にとって直接的な価格の裏づけになります。
品種選択には、経営判断としての性格があります。堅実なCatuaiを選ぶのか、賭けに近いPacamaraに挑むのか。畑の構成を見れば、その農園がどんな未来を描いているかが少し見えてきます。
品種どうしのつながりと性格の違いは、品種の系譜を読むで一枚の図にまとめています。


