Typica — すべての始まりにいる、収量の低い名門
2026-07-05
Typicaという名は「典型的な」を意味します。その名の通り、この品種は栽培Arabicaの原型であり、系譜図を遡っていくと驚くほど多くの品種がここに行き着きます。
一本の木から広がった系譜
十七世紀末、オランダ人がイエメンからジャワ島へコーヒーの苗を持ち出しました。その系統の一部が一七〇六年にアムステルダムの植物園へ送られ、育った株が一七一四年にフランス王ルイ十四世へ贈られます。パリの王立植物園で育てられたその木から採られた苗を、海軍士官Gabriel de Clieuが一七二三年、カリブ海のマルティニーク島へ運びました。
航海中に飲料水を分け与えて苗を守り抜いたという逸話が残っています。真偽はともかく、中南米に広がったコーヒーの相当部分が、ごく少数の個体を祖先に持つことは遺伝的にも裏づけられています。ジャマイカのBlue Mountain、ハワイのKona——名前の知られた産地の多くが、このTypica系統です。
Route
Arabicaが世界へ渡った、二つの道
- エチオピア南西部原産地野生のArabicaが今も残る高地林
- イエメン(モカ港)栽培の始まりモカ港から積み出された
- ジャワ島17世紀末オランダ人がイエメンの苗を持ち出す
- アムステルダム1706年植物園へ送られる
- パリ1714年ルイ十四世に贈られ、王立植物園へ
- マルティニーク島1723年Gabriel de Clieuが苗を運ぶ。中南米のTypicaの源流
- ブルボン島(現レユニオン島)18世紀初頭フランス人がイエメンから運ぶ。Bourbonの名の由来
- アフリカ大陸19世紀半ば以降宣教師や入植者の手でアフリカ大陸と中南米へ
弱くて、美しい
Typicaの評価は一貫しています。カップは澄んでいて、甘さと酸のバランスが良く、繊細な香りを持つ。しかし収量が低い。Bourbonと比べて三割ほど少ないとされます。樹形は縦に伸びやすく、枝の間隔が広いため、単位面積あたりの効率も良くありません。さび病にも弱い。
つまり生産者にとっては、育てにくく儲かりにくい品種です。それでもTypicaが今日まで残っているのは、その味を惜しむ人々がいたからにほかなりません。近年のスペシャルティ市場では、あえてTypicaを守り続けている農園の豆が高く評価される場面が増えています。
見分け方と、その後の展開
新芽が銅色を帯びること、豆が細長い楕円形をしていることが外見上の特徴です。Typicaからは自然突然変異でいくつもの品種が生まれました。実が極端に大きくなったMaragogipeはブラジルで見つかった変異で、後にPacamaraの片親になります。
系譜の起点にいるということは、それだけ多くの可能性を後代に渡したということです。Typica自体を飲む機会は多くありませんが、私たちが日常的に口にしているコーヒーの相当部分は、この品種の遠い子孫です。
Family tree
品種の系譜(上から下へ世代が進む)
← 横にスクロールできます →
- エチオピアの在来種 → Typica(イエメン経由)
- エチオピアの在来種 → Bourbon(イエメン経由)
- エチオピアの在来種 → Geisha
- Typica → Maragogipe
- Typica → Mundo Novo
- Bourbon → Mundo Novo
- Bourbon → Pacas
- Bourbon → Caturra
- Bourbon → Villa Sarchi
- Bourbon → SL28 / SL34
- Canephora → Timor Hybrid
- Maragogipe → Pacamara
- Pacas → Pacamara
- Mundo Novo → Catuai
- Caturra → Catuai
- Caturra → Catimor
- Timor Hybrid → Catimor
- Villa Sarchi → Sarchimor
- Timor Hybrid → Sarchimor
- Sarchimor → Marsellesa
- Sarchimor → Centroamericano
- エチオピアの野生種 → Centroamericano
- Marsellesa → Starmaya
- Centroamericano → Starmaya
品種どうしのつながりと性格の違いは、品種の系譜を読むで一枚の図にまとめています。


